ポリネーター・フレンドリー・ガーデニング
第1章
「花はすてきなレストラン」
↑2017/03/03 菜の花で吸蜜するニホンミツバチ
花がレストランだということ、ご存知ですか?
素敵な色と香り、甘い花蜜、栄養たっぷりの花粉。
ミツバチたちにとって花は極上のレストランです。

↑2021/06/23 アキレア(セイヨウノコギリソウ)で吸蜜するセイヨウミツバチ。 私たちが住んでいるエリアにはセイヨウミツバチの養蜂家がいないのでしょう。この庭にはあまり飛来しません。

↑2021/05/29 マロウ(ウスベニアオイ)の花で吸蜜するクロマルハナバチ。どういうわけか、日本ではマルハナバチのことがあまり知られていません。ミツバチより少し大きいミツバチ科のハチです。近年、日本全国で絶滅を危惧されています。

↑2020/06/02 ムシトリナデシコで吸蜜するトラマルハナバチ。背中の黄色系の毛を虎のイメージに重ねたのでしょう、「虎丸花蜂」です。私たちの庭では大活躍しています。

↑2019/05/26 ベロニカ・フェアリーテイルで吸蜜するコマルハナバチ。後ろ足に小さな花粉団子を付けています。かわいい小さな丸花蜂です。

↑2018/06/27 ラベンダーの花に吸蜜にやってきたクマバチ。ブーンという羽音の大きい存在感のある大型のハナバチです。性格はいたっておとなしい。
以上、ニホンミツバチ、セイヨウミツバチ、クロマルハナバチ、トラマルハナバチ、コマルハナバチ、クマバチの6種は、共同生活して集団行動する社会性のあるハチ・・・花のレストランに「団体客」としてやってくるお客さんです。
一方、あまり知られていませんが、「御一人様」でやって来る個性的なお客さんたちがあります。 英語で「ソリタリー・ビー Solitary bee」、和訳して「単独性ハナバチ」と呼ばれる子たちです↓

↑2021/05/25 シュンギクの花で吸蜜する蟻サイズの単独性ハナバチ。名前は不明。似たようなハチがたくさんいて専門家でなくては確定できまません。羽が無ければほぼ蟻に見えます。
かなり小さい、肉眼だとよくわかりません。特に私のように近眼の老眼だと。デジタルカメラで撮って、パソコンで拡大して、「ああ、こういう姿だったのか」と感嘆します。
シュンギクの花をご存知ですか? シュンギクの葉をスーパーマーケットで買って鍋物に入れることはあっても、シュンギクの花を目にする機会はほとんどないと思います。
私は庭で自家用に少しシュンギクを栽培するので、毎年シュンギクの菊らしい花を鑑賞することができます。で、そこに蟻サイズのハチがやって来るんです。「御一人様」で。

↑2021/04/19 カモミールの花で吸蜜するアカガネコハナバチ。 カモミールの花は小さい。そこにこんな小さなハチが吸蜜していることに気づく人は少ないと思います。そういう意味でこれは奇跡的な写真であるといえます。

↑2021/04/05 ブロッコリーの花で吸蜜するヒゲナガハナバチ。 後ろ足に花粉団子を付けています。
ニホンミツバチより少し小さいハチです。ミツバチたちは集団で飛来して、てきぱき吸蜜します。さぼっているミツバチや休憩しているミツバチを見たことがありません。
ヒゲナガハナバチのような単独性ハナバチたちは、マイペースというか、もたもたしているというか・・・そこがこの子たちの面白いところです。

↑2021/07/12 マウンテンミントの花で吸蜜するヒメハラナガツチバチ。
「ハラナガ」という名前の通り、おなかが長い。それがじゃまになって、ミツバチのようには速く飛べない。
飛ぶのも遅いし、食事をするのも遅い。そのために写真は撮りやすい。ミツバチのように素早いハチは撮るのが難しい。
単独性ハナバチの存在は、あまり知られていないけれど、約400種もいるそうです。あまり大切に思われていないけれど、彼らが地球の生物多様性を支えているようです。

↑2019/05/11 ヤグルマギクの花で蜜をなめるナミハナアブ。
花のレストランにやって来るのはハチだけではありません。ハナアブの仲間が花蜜や花粉をなめます。 ハナアブという名前になっているけれど、ハエの仲間に近いそうです。どうりでハエみたいな顔だし、ハエみたいになめます。

2021/04/27 ムラサキハナナの花で食事するアシブトハナアブ。日本には約500種のハナアブが生息しているそうです。私がわかるのはたった20種類ぐらいでしょうか。ハナアブのこと、多くの人が知らないと思います。

2019/05/04 カモミールの花にフタホシヒラタアブ。

2019/05/11 ヤグルマギクの花にやって来たミナミヒメヒラタアブ。8mmか1cmほどしかない小さなハナアブ。

↑2020/05/22 カモミールの花で吸蜜するベニシジミ。花のレストランを利用する生物と言えば、最初にイメージするのは蝶たちのことでしょうか? 花と蝶の組み合わせは美しくて絵になります。
ハナアブを喜んで撮るひとはあまり見かけません。私のFBフレンドにもいませんでした。私は自分の担当として、ハナアブや単独性ハナバチのような、あまり脚光を浴びない、でも重要なお仕事をしている生物の写真を撮りたいと思いました。
でも以前は、例えばスイレンや薔薇の写真を撮るとき、蟻サイズのハナバチが邪魔だと思って追っ払ったりもしていました。今は、そんなことはしません。
花はこういう子たちに来てもらうために咲いているのだから↓

↑2021/06/09 スイレン「ローズアレー」に吸蜜にやってきた蟻サイズの単独性ハナバチ。

↑2019/05/13 薔薇にやって来たヒラタアブの仲間。彼らを邪魔者扱いしてはいけないということがわかってきたんです。そのことは後で書きます。

↑2019/06/05 ヤブカンゾウもしくは園芸種のヘメロカリスで吸蜜するナミアゲハ。ユリ科の植物にはよく大型のアゲハの仲間が吸蜜にやって来ます。

↑2021/05/30 花のレストランではこんなこともあります。ムシトリナデシコの花で、モンキチョウとトラマルハナバチが相席。

↑2019/05/21 こんな相席もあります。セイヨウミツバチとクロボシツツハムシ。クロボシツツハムシは、テントウムシに似ていますが、まったく違う甲虫です。
私は試してみたことはないけれど、テントウムシを食べると、ものすごい苦味があるらしい。それを知っている鳥たちや他の生物はテントムシを捕食しない。クロボシツツハムシは、苦虫であるテントウムシに擬態しているという。

↑2021/05/06 薔薇「ドルトムント」の花粉を食べに来たベニカミキリ。花のレストランには甲虫類もやって来ます。 バッタだってやって来る↓

↑2020/10/31 薔薇の花にやって来たツチイナゴ。

↑2023/01/21 サザンカの花蜜を求めてやって来たメジロ。目のまわりの白いリングが特徴。ここ大分県の県鳥にもなっています。鳥たちも花のレストランを利用します。
私たちは小学校のときは理科、中学・高校では生物を勉強してきましたが、花のレストランにやってくる多種多様な生き物のことをほとんど知りません。ハチやアブというと刺すと思って恐がる人も多い。
肉食系のアシナガバチとハナバチたちを混同している人が多い。そのアシナガバチも、じょうずにつきあえば、彼らは薔薇につく毛虫を捕食してくれます。庭で殺虫剤を使いたくない人はアシナガバチの巣を排除しない方がいいです。
生き物たちのことは、学校の教室のなかで学ぶのは難しいかも知れません。学校の勉強というのはいわば「試験のための勉強」です。高校や大学の試験に合格するための勉強なので、意外に何も知らないんです。
かくいう私がそうでした。裏山を含めて1000坪の里山に定住を始めた2002年3月には、何もわからない自分に愕然としました。ミツバチとナミハナアブを混同していました。
クマバチも刺すと思って怖れました。

↑2018/06/01 西洋ニンジンボクの枝で見つけたシマヘビ。
あらゆる生き物と、どうつきあったらいいのかわからない。ヘビ、トカゲ、ヤモリ、ムカデ、ゲジゲジ、スズメバチ、クモ、毛虫・・・都会の生活ではあまり姿を見かけない生物もいきなり現れます。
都会なら誰かが大騒ぎして殺虫剤を噴霧するか、駆除業者に連絡するかも知れません。が、わざわざ豊かな自然を求めて里山に残っていた築明治元年(1868)の古民家に移住した私たちは、先住生物たちとの共生をめざして模索しました。
あれから20数年、自然を観察してみてわかってきたこと・・・今回は花のレストランを利用するハナバチやハナアブ、蝶たちのことを話題にします。
が、私は生物学の専門家ではないし、アマチュア研究者ですらありません。だから昆虫の名前等、間違っている場合があるかと思います。ご指摘いただけるとうれしいです。
写真はすべて庭で撮影しました。それは少しは自慢しています。多種多様な昆虫やカエルや植物を自分の庭だけで撮るというのは難しいと思います。その中には絶滅を危惧されている生物たちも少なからず含まれています。私たちが手がけたことで、ここの庭が豊かになったことの実証でもあると思います。
カメラは初級者用の一眼レフを使用して、いつもオートで撮っています。写真の技術も初級者だということです。ただ愛情と尊敬をもって撮るように心がけています。
植物もすべて私たちが育てているものです。ほとんどの植物は、思い出深い長いつきあいです。でもガーデニングをどこかで学んだということもありません。ガーデニングの基礎を知りません。
長いこと庭仕事や菜園をやってきたけれど、いわゆるガーデニングをめざしてきたわけではありません。イングリッシュガーデンとか、ターシャ・テューダー風の庭とか、〇〇農法とか、何か目標とするものがあったわけではありません。
目のまえの自然を観察しながら、手探りでやってきただけです。ガーデナーとは言えないことを自覚しています。ただ植物や土、微生物たちに対して愛情と尊敬を持って接するように心がけています。
同じ場所でずっと観察しているからわかることがあります。減少してきた、とか増加してきたということです。クロマルハナバチやコマルハナバチは減少していると思います。
2002年3月当初から農薬、除草剤は使用していません。ですが田畑に囲まれているので、農薬、除草剤の影響は受けます。この問題はあとの章で触れますが、文明全体の問題、産業構造や消費者意識全体の問題であって、誰かを悪者にすることはできません。
多くの消費者は、スーパーマーケットでピカピカの野菜やくだものを買います。青虫がかじったような野菜は買いません。 青虫を殺すために農薬が必要です。その農薬によって他の生物も影響を受けることになります。花のレストランにやって来る子たちもです。
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