ポリネーター・フレンドリー・ガーデニング
第5章
「薔薇1 Rose」

↑2018/11/06 薔薇の花にやって来たニホンミツバチ。

「花の女王」と称賛される薔薇。私たちも薔薇に魅せられ、次々と薔薇苗を買い求めた時期があります。冬場に「地堀苗」と呼ばれる安価(1000円ていど)な苗が販売されます。それを植えていきました。

一時は大小150本ほどの薔薇が育っていました。今(2025年)は、約70本が残っています。半数以上枯らしたわけです。落ち込んだり、くじけそうになったりもしました。薔薇栽培の初心者は、地堀苗には手を出さない方がいいと思います。

順調に育って大株になった薔薇でも枯れることがあります。去年は立派になっていたアルケミストとマリアカラスの大株が枯れてショックでした。なぜ大株まで枯れるのか、そのことはあとで話題にします。

↑2018/11/06 上のニホンミツバチの拡大。

私たちが栽培している薔薇のほとんどは、1867年以降に作出されたモダンローズと呼ばれる薔薇です。品種改良が進みすぎているために、花蜜や花粉が少ないのでポリネーター・フレンドリーではないという人があります。

ところが私たちの庭では、薔薇の花にいろんな「花粉の運び屋さん」たちがやって来ます。 花弁の奥にオシベやメシベが隠れている品種の場合は、花芯に潜り込んでいく様子を観察できます。

2018/11/06

2018/11/14

2018/11/06

2018/11/06

2018/11/03 オシベやメシベが露出している品種の場合は、ミツバチが吸蜜している姿を見ることができます。

2018/11/06 夢中に吸蜜しているように見えます。

2022/11/05 ミツバチにとっては花蜜や花粉があれば、そこは素敵なレストランだと思いますが、この花弁の傷みよう、人間にとってはどうでしょうか? 

体長1mm以下の昆虫アザミウマの仕業だと思いますが、観光薔薇園は、お客さんにこういう花弁を見せるわけにはいきません。当然農薬散布が必要になります。花屋さんで買う薔薇はもっとそうです。

花だけでなく葉も、昆虫にかじられた跡が少しでもあったら売り物にはなりません。薔薇を商品として栽培するのであれば、農薬散布は必須だと思います。

2022/11/05 けれど農薬は害虫を殺すだけでなく、ミツバチたちにもダメージを与えます。


↑国際連合環境計画(UNEP)の『ポリネーターと農薬 私たちのハナバチを安全に保つ』という小冊子(PDFファイル)があります。

原文の“Pollinators and Pesticides”の、“Pesticides”(ペスティサイド)は、害虫を殺すための化学物質全般を指す言葉で、日本では一般に「殺虫剤」と訳されます。今回ChatPDFで翻訳したら「農薬」と訳されました。

その中に下のような図があります。ここで「ミツバチ」となっているのは“Bee”の訳。ミツバチを含むハナバチのことです↓

この冊子の中に次のような記述もあります(ChatPDF訳)↓

【ポリネーターへの農薬のリスク】
集約農業は、ポリネーター、受粉、野生のハナバチの多様性を脅かしています。これは、農業用農薬の使用が種の豊富さに重大な悪影響を与える可能性があるためです。

農薬によるポリネーターへのリスクは、毒性と曝露レベルの組み合わせによって生じます。農薬、特に殺虫剤は、ポリネーターに対して幅広い致死的影響を与えることが実証されています。

ポリネーターの多様なコミュニティは、単一の種よりも効果的で安定した作物の受粉を提供します。野生のハナバチの多様性は、ミツバチが大量に存在していても作物生産に貢献します。野生のポリネーターの作物生産への貢献は過小評価されています。

雑草を防除するための除草剤の使用は、花粉と蜜を提供する顕花植物の豊富さと多様性を減らすことにより、ポリネーターに間接的に影響を与えます。


» 国際連合環境計画(UNEP)「食料を作るには虫や動物がいなくちゃ!」

近年世界中でミツバチのコロニーの減少が報告されています。「蜂群崩壊症候群」(ほうぐんほうかい)というそうです。その原因について上記サイトはこう記述しています↓

1.気候変動によって変化した、生育期と降雨パターン、寄生生物、害虫など

2.昆虫の食べられる植物も減らす除草剤や農薬

3.動物の処理に使うものも含む(ある種の化学薬品の混合液はミツバチに対する毒性が1,000倍も強力になることがある)殺虫剤や殺菌剤

4.ミツバチの植物探知能力を損なう恐れがある大気汚染

5.送電線などの電源から出る電磁場

2021/05/06 ツル薔薇「ドルトムント」で吸蜜するトラマルハナバチ。両後ろ足に非常に大きな花粉団子を付けています。ドルトムントで集めたのだと思います。 ドルトムントは1955年にドイツで作出された強健種です。

農家直売所で、「バラ」とだけ書いてある苗を買ったのでした。咲いてみるとドルトムントであることがわかりました。どんどん成長し、剪定枝を挿し木したら成功し、今では2本が大株に育ちました。

ドルトムントは私たちを楽しませてくれるだけでなく、ハナバチたちの素敵なレストランになります。 あれだけ大きな花粉団子を小さな花から集めるのは大変だと思いますが、ドルトムントのような大きな花なら、じきに集められそうです。

2021/05/06 トラマルハナバチ。



2021/05/06 ドルトムントで吸蜜するクロマルハナバチ。私たちはミツバチやマルハナバチを含む多様なハナバチ、ハナアブ、バッタ、蝶たちを家族や友人と思っているので、この子たちが死んでしまうような薬剤を散布することはできません。

でも薔薇農家であったり、薔薇園を経営されているかたが農薬散布されるのは当然のことと思います。薔薇の花弁が害虫にかじられた跡を見て、「農薬を散布していないのねステキ」と言ってくれるお客さんはまあ無いと思います。

「自然が大切」「自然を守らなくてはならない」と言うひとも、クロマルハナバチが吸蜜のために薔薇に飛んできたら、刺されると思って怖れる人が多いと思います。

そもそもムシが嫌いで、何見てもゴキブリに見えて身の毛がよだつかたもあります。ゴキブリは私も嫌ですが、ゴキブリとクロマルハナバチは全然違います。違いを見分けるまえに、生理的にムシが嫌いな人も多い。

生まれたときから、生き物があまりいない環境に育ったひとは、ムシを嫌悪するような感性を身につけてしまうというのも理解はできます。 でもそうなると「自然が大切」「自然を守らなくてはならない」というのは思考というか観念というか、ただの哲学、思想、言葉になってしまう。

だから私は何度でもこのかた、天保3年(1832)創業、京都・植藤造園16代目・佐野藤右衛門さんのこの言葉にたち帰りたいと思います。

今なあ、自然破壊やら地球温暖化防止やら、いろいろと声を上げておる人がようけおるやろ。それも大事や。わしもだいぶ前から、 自然がおかしくなってきとる、と思うてたんやから。

木を育てる仕事をやっとるとなあ、自然ちゅうもんがどんどん壊れていくのを、肌で感じんのや。けど、そうしたのは、人間やで。 人間が勝手に人間だけの都合で、ものを進めてきたからなんや。

もう人間は、自然との接し方がわからんようになってきてる。というより、「人間は自然の一部」という基本を忘れてしもてんねん。で、大上段に言葉だけで自然保護を叫ぶのはあかん、と思うんや。

そやのうて、わしらひとりひとりが、土と語り、水と語り、木と語っていくことが大切なんや。それが、自然を知ることや。どうやって自然と語るのかって?  

そうやなあ、庭をつくってみるのはどうや。庭の基本は、土と水。それに木や。 立派な自然と思わへんか。 地球上のあらゆる生物が生息できて、人間も楽しめるのが、庭なわけや。
『木と語る』小学館 1999/10/1刊行

2025/05/31 ドルトムントで吸蜜するミツバチより少し小さな子。

2025/05/31 この子も後ろ足に花粉団子を付けています。

風で花弁がめくれ上がったら、この子の上方で、クモが蟻サイズのハナバチを捕食していました。「花は素敵なレストラン」と書きましたが、花にはこういう危険もあるということです。

クモ、カマキリ、肉食系のバッタ、アマガエルたちが潜んでいるかも知れません。アシナガバチやスズメバチの仲間が襲ってくることもあります。暗殺者みたいなシオヤアブもいます。 そういう子たちみんながドルトムントに集まってくる。

2021/05/23 これがドルトムントにやってきた蟻サイズのハナバチ。

2021/05/23 蟻サイズだけれど、この子も後ろ足に大量の花粉団子を付けています。子育てのために必要なのでしょう。蟻もそうですが、子育てするというのはすごいことだと思います。蝶やバッタは子育てしません。

この子たちは自分が吸蜜したり花粉をいただけたらそれで終わりというのではなく、子供たちのために食糧を巣に持ち帰らなくてはならない。 ほんの数ミリのこんなに小さな子が、けなげにそんな努力をしています。

2021/05/23 ドルトムントに食事にやって来たニッポンヒゲナガハナバチの女の子。

2021/04/30 この子もニッポンヒゲナガハナバチの女の子。この子を撮影していたら、突然空中からニッポン男児が急降下してきました↓

長い触角を持つ男の子が、求愛のために女の子に突撃。ちょっと乱暴かな。女の子にはもっと優しく優しくしないと。

2019/05/21 ドルトムント。

2021/05/10 ドルトムント。背景が灰色なのは、無粋なブロックです。そこは以前はニワトリ小屋で、何羽も買っていました。コケコッコーの声が庭のBGMでした。そのご堆肥小屋として使っており、薔薇や野菜の重要な肥料を作ります。

2021/05/10 ドルトムント。薔薇は肥料を好む植物です。薔薇農家や薔薇園は当然化成肥料を使用すると思います。花屋さんで買う薔薇は、100%化成肥料育ちだと思います。そうしないと花がきれいなカタチになりません。

商品として薔薇を育てる場合は化成肥料が必須となるとして、化成肥料を使うと農薬が必要になります。化成肥料と農薬はセットになっています。それについては後の章で話題にします。

家庭菜園や家庭園芸で農薬を使いたくなければ化成肥料を使わない方がいいと思います。あるいは化成肥料はごく少量にして有機肥料と兼用する方法はあると思います。この地方ではそうやって成功しているかたもあります。

化成肥料を使わないで野菜作りをされる人は知っていることですが、ニンジンでもダイコンでもキュウリでも、カタチが不ぞろいになります。 曲がっていたり、細かったり太かったりします。

薔薇の花もそうなります。花屋さんの薔薇のようにはなりません。ポリネーター・フレンドリーであるためにはそれをよしとします。

2018/02/24 掘り出したばかりのニンジン。スーパーマーケットに並んでいるものとは姿が違います。近年はニンジンは栽培していませんが、菜園で栽培した野菜のなかで特に印象に残るのはニンジンの味だと妻は言います。

土をていねいに耕したり、きちんと間引いたりすれば、もうちょっと姿は整います。二股になったりしないんですが、あまり世話をせず雑草と一緒に育つと見てくれはこんなふうになります。でも味も香りも印象に残るわけです。

これはいつの写真かわからないんですが、土を落として美人(?)になっています。こちらは比較的世話した方だと思います。 それでも不ぞろいです。上の写真も下の写真も肥料は使わなかったと思います。下のダイコンも↓

2018/02/26 掘り出したばかりの辛味の強い時無し大根。

化成肥料は初めから使ったことがないんですが、有機の肥料、例えば鶏糞、牛糞、豚糞は使ってみました。ホームセンターなどで売っている安価なものをそのまま使うと害虫を招くことがあったので、野菜作りの場合は有機であってもできるだけ使わないようにしました。

そのご薔薇栽培にチカラを入れるようになると、薔薇は肥料を必要とする植物なので無肥料栽培というわけにはいかず、山の放線菌を種菌としてヌカやモミガラ、落ち葉、青草、草木灰、それと家庭生ごみ、何でも投入して発酵肥料を作ってきました。

生ごみは2002年にここに移住した当初から捨てずに堆肥化してきました。失敗してイエバエやアメリカミズアブのウジを大発生させてしまったこともあります。 そのことはあとの章で話題にします。

2016/05/14 後ろが堆肥小屋の無粋なブロック壁。この頃、ツル薔薇の支柱は裏山で切ってきた樫(カシ)の木を使っていました。樫という字のとおり堅い木です。後ろがブロック壁でなければナチュラルで、いい雰囲気なんですが・・・

2016年の段階ではまだドルトムントの背が低かった。紫色のクレマチスをからめたりもしています。右上のむこうに見えている葉はハッサク。その下にはネギが植わっています。

薔薇の支柱やアーチは格調高いものがものが製造されていて、本屋に並ぶ薔薇の写真集では、ため息がでるような素晴らしいものを目にします。そして、それが美しければ美しいほど害虫による花や葉の痛みや、薔薇の持病ともいえる黒星病が、特別にみすぼらしく汚く見えます。

オーガニックの野菜や果物を食べ、日頃から健康に配慮している紳士淑女が、薔薇に関しては農薬を使いたくなる気持ち、わかります。

2025/06/06 これがその黒星病です。これを気にし過ぎると、ポリネーターに優しくない庭になってしまいます。

健全な土作りをしていけば黒星病では枯れません。枯れる原因の一番はモグラ、次はゴマダラカミキリの幼虫テッポウムシです。テッポウムシのせいで果樹でも花木でも枯れます。そのことはあとの章で話題にします。

2021/05/06 正面の建造物が元ニワトリ小屋の堆肥小屋。ドルトムントは立派な姿になっています。

支柱は樫の木をやめて、セキスイの園芸用支柱にしました。成長に合わせて支柱を組み替えるとき、樫の木だとハリガネを巻き戻したり、また巻いたりが手間で大変だからです。

園芸用支柱なら「菜園クロスバンド」というシンプルな金具を使うんですが、それだと取り外しがカンタンです。

格調高い支柱やアーチを使っている紳士淑女から見たら、薔薇の支柱にセキスイの園芸用支柱を使うなんて、身の毛がよだつようなことかも知れませんが、 ポリネーターたちにとっては、どちらでもいいんです。

花とポリネーターは切っても切れない間柄。人間が自分勝手な美学で、ポリネーターに対してひどいことをしたら、花はその人のことをよく思わないと想像します。

2022/05/22 正面中央の木は西洋ニンジンボク。西洋ニンジンボクはポリネーターたちにとって特に素晴らしい蜜源植物です。あとの章で話題にします。

2022/05/22 ドルトムントの下草として白花のカラーを植えました。それは現在もここにあります。

2023/05/21

2023/05/20 家屋の背後は裏山の木。樫、

2025/06/04 これが挿し木から育てたドルトムント。田植えのすんだ田んぼが隣接しています。

2025/06/04 こちらも挿し木から育てました。

ポリネーター目線で栽培するのであれば、薔薇はポリネーター・フレンドリー・ガーデンを彩る素晴らしい蜜源植物であり、 花粉を必要とする昆虫にとって特に優れたレストランであると思います。

が、人間目線だけで薔薇を栽培するのであれば、薔薇はポリネーター・フレンドリー・ガーデンには向かない植物だと思います。

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